水の来た道は、恋の来た道?

さて風水旅日記。2回目にご紹介するのは、貴船神社である。
この神社の歴史はとにかく古いらしい。はっきりとはわからないのだが、第18代反正(はんぜい)天皇の時代に建てられたといわれている。今から約1600年前の話だ。

貴船神社

神武天皇の母、玉依姫(たまよりひめ)が黄船に乗って淀川から鴨川を経て、今の奥宮のある場所に上陸し社殿を建てた、という。水の神「高おかみの神」を祀る。言っておくが、「おかみ」は「女将」ではない。「雨」かんむりの下が「龍」の字で「おかみ」と読む。水をつかさどる神、とりわけ水そのものよりも雨を自在に操る神だそうだ。

貴船神社は朝廷からたいへん崇敬された。それは地理的にみても、風水学的にみても、である。
なぜならこの一帯は、平安京の東を南北に流れる鴨川の水源にあたる。都市生活を維持するうえで、水の確保は重要だ。朝廷は日照りがつづくと黒馬を、長雨が続くと白馬を神社に献納した。朝廷から貴船へ、使者が百回以上遣わされた記録があるそうだ。
また鞍馬寺とならび、鬼門封じ(=比叡山延暦寺)が万一破られた場合の、防御壁としての役割がある。

さらに貴船の地を風水の五行相生説に基づいてみてみると、水は養分となって木が育ち、その木が燃えて火が生まれる…という陽のつながりを具現化させた土地であることがわかる。それは貴船・鞍馬以北が北山杉の産地として名高いことに裏付けられるだろう。
ダテに古いだけではない、風水思想によって極めてシステマティックに整えられたこの社に、ぼくはワクワクした。

貴船神社は本社・結社・奥宮の3つの社からなり、その順番にぼくは歩いた。しかし後で知ったのだが、参拝するのにも順番があって、最初に本社、次に奥宮を参り、最後に中間にある結社を参るそうである。
まずは本社へ行った。朱色に塗られた灯篭を両脇に見ながら、ぼくは石段をゆっくりとのぼる。本社の本殿は昨年、新しくつくりかえられた。ここで「結びの文」と呼ばれる短冊状の紙に願いをしたため、結社のほこらの裏に結ぶのである。一昔前は笹の葉に願い事を書いていたが、その名残からか、今では薄い緑色の紙に書くことになっている。

貴船神社

本殿の霊泉で行う水占いも人気だが、こちらの起源はつい最近のことらしい。しかしおみくじを水につけると、占いの結果が紙に浮いて出るという一手間かけた点が人気の理由のようだ。
樹齢何百年もある杉の並木を右手に見ながら、奥宮へ向かう。

貴船神社

ここは玉依姫が上陸した場所とされ、姫が乗ってきた黄船の周りに石を積んで囲い、奉ったのが現在の船形石といわれている。もし、石を全部取り除いたら、なかから舟の破片なんかが出てくるのだろうか?神話なのか、事実なのか?
さて、願いを込めた結びの文は結社でくくりつけ成就を願う。社のそばには、さる人物の歌碑がある。
碑には、こうある。

貴船神社

「もの思へば 沢のほたるもわが身より あくがれいづる たまかとぞ見る」

(たしかにわたしはオトコ遊びも派手だけど、でもね、一度は愛したうちのだんなが他のオンナに夢中になっているなんて!それはそれで、絶えられないわ…う〜ん。なんて思い悩んで貴船神社に来てみたら、蛍がたくさん光りながら、あたりを舞っているの。とうとうわたしの魂が抜けて出ていっちゃったんだわ。もうすぐわたしの体もぬけがらになって、そのうち死んじゃうんじゃないかしら…。)

その人、和泉式部。意訳はかなり飛躍させたが、事実、彼女はモテたのである。負けん気も強い。そんな彼女だが、夫が振り向いてくれないことにエライ悩んでしまい、暗たんたる思いで貴船神社へ参拝した。6月のことである。
なぜ、貴船神社が恋愛成就の神社といわれるようになったのだろうか?答えは、和泉式部の願いがみごとに成就したことに始まる。このことを知った恋に悩む先人たちは、こぞって詣でたのである。

和泉式部がきっかけで今日における“恋愛成就の貴船神社”が成立したといっていい。なぜなら「和泉式部以前」の貴船には、“何にでも効く神社”という漠然としたキャッチコピーしかなかったからである。
彼女の恋愛の願掛けをした場所が、水を祀る神社であったことは風水的にみても間違いではないと思う。
水はものごとを、 『清める』『きれいにする』『育てる』のだ。

繰り返すが貴船一帯は鴨川の水源である。水の源には、こうした <清める><きれいにする><育てる> 気が集まると考えてみる。すると、和泉式部の想いは貴船の地で浄化され、育くまれ、勢いよく川を下るように夫のもとへと伝わった…といっては言いすぎだろうか?
貴船神社にはさまざまな人の恋愛成就への気が集まっている。ひとは無意識のうちに気のある場所へ吸い寄せられているのかもしれない。
ちなみに「貴船」の名は、玉依姫が乗ってきた「黄船(きふね)」が由来とも、気が集まり生命を根付かせるという意味の「気生根(きふね)」が由来とも言われる(ほかにも諸説あるが)。ぼくは取材してみて後者のほうかもしれないと思った。

写真と文 / 高橋友和

■貴船神社・・・
叡山電鉄出町柳駅(鞍馬線)から約25分。
貴船口で下車し徒歩約30分。



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